宮崎地方裁判所 昭和62年(行ウ)3号 判決 1988年1月18日
宮崎県日向市大字幸脇一〇六五番地
(送達場所)同市大字財光寺一四三九の一橋口電装内
原告
児島福美
宮崎県延岡市東本小路一一二の一
被告
延岡税務署長
溝上諭
右指定代理人
金子順一
同
末廣成文
同
下田稔
同
松下文俊
同
土井健
同
井村和雄
同
西名輝美
同
中村茂隆
同
上園博幸
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告の原告に対してなした昭和五五年分の課税処分及び滞納処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は原告に対し、昭和五五年分の所得税について課税処分をなした。
2 被告は、昭和六一年六月七日、原告の昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の滞納処分として原告所有の別紙物件目録記載の土地を差押えた。
3 しかしながら、原告は昭和五五年は商売(飲食店経営)を廃業し、所得がなかつたのであるから、本件課税処分は違法である。また、本件滞納処分は、昭和五四年分の所得税については昭和六二年六月一七日に納付済みであり、昭和五五年分の所得税については本件課税処分が違法であるから取消されるべきである。
よつて、本件課税処分、本件滞納処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
1 予定納税額等の取消しについて
(一) 本件課税処分の取消請求は被告が原告に対して通知した昭和五五年分所得税の予定納税額六万一六〇〇円の取消しを求める趣旨であると解されるところ、右予定納税を納付する義務は、その年の六月三〇日(特別農業所得者に係るものについては、その年の一〇月三一日)を経過する時に法律上当然に成立し(国税通則法施行令五条一号)、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する(国税通則法一五条三項一号)のであり、その確定につき税務署長の何らの行政行為を要しない。
したがつて、予定納税額の確定について国税通則法七五条に規定する「国税に関する処分」は何ら存在しないから訴えをもつてこの取消しを求めることはできないというべきであり、本件訴えは不適法である。
(二) また、予定納税額は何らの行政行為を要しないで法律上当然に確定することに鑑みれば、予定納税額等の通知(所得税法一〇六条一項)は、納税義務者の便宜を考慮し、税務署長がすでに確定している予定納税額を事実上確認するために計算し、右計算の結果を納税義務者に知らせる単純な通知行為と解するのが相当であり、国税通則法七五条に規定する「国税に関する処分」には該当しない。
したがつて、訴えをもつて予定納税額等の通知の取消しを求めることはできないというべきであり、本件訴えは、この点からしても不適法である。
(三) 更に、確定申告書を提出する義務のない居住者が確定申告書を提出しない場合においては、その者の予定納税額は、その年分の所得税額として確定する(同法一〇三条)が、その確定についても税務署長の何らの行政行為を要しないのである。
したがつて、原告の昭和五五年分所得税額六万一六〇〇円の確定につき、国税通則法七五条に規定する「国税に関する処分」は何ら存在しないから訴えをもつてこの取消しを求めることはできないというべきであり、この点からしても本件訴えは不適法である。
2 差押処分の取消について
国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分にあつては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあつては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができない(国税通則法一一五条一項、行政事件訴訟法八条一項)。
ところで、別紙物件目録記載の土地に対する差押処分が右国税に関する法律に基づく処分に該当することは明らかであるが、原告は、右差押処分に対して前記各不服申立てを行つていない。しかも、原告の訴えが右差押処分の取消しにつき国税通則法一一五条但書各号所定の決定または裁決を経ることなく直ちに裁判所に出訴できる事由も認められない。
してみると、右差押処分の取消しを求める訴えもまた不適法であり、却下されるべきである。
理由
税務署長の処分に対しては異議決定と審査裁決を経なければ裁判所に出訴できない(国税通則法一一五条一項本文、七五条一項一号、三項)ところ、原告の主張する本件課税処分(もつとも、その内容は明らかではない。)及び本件滞納処分については、適法な不服申立がなされたこと又は国税通則法一一五条一項但書各号に該当する事由があることの主張・立証がなされていない。
よつて、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川畑耕平 裁判官 寺尾洋 裁判官 多和田隆史)
物件目録
一 所在 日向市大字幸脇字幸木一一二五番
種類 宅地
面積 一二八・九二平方メートル
二 所在 右同所一一二六番
種類 宅地
面積 一三八・八四平方メートル